事態は突然に展開し、坂本加奈が駆け寄った瞬間、西村雄一郎は反応したものの、椅子は既に手から飛んでいた……
黒川浩二は大量の酒を飲んでいて、頭がぼんやりしており、全く反応できず、椅子は坂本加奈の背中に激しく打ち付けられた。
「うっ……」坂本加奈は痛みで呻いた。
「加奈……」西村雄一郎の瞳が引き締まり、心臓が急に締め付けられるように、何かに踏みつぶされたような感覚だった。
「加奈ちゃん」黒川浩二は我に返り、彼女の細い体を支えた。
あまりにも痛かったのか、顔は真っ青で、全身が震えていた。
坂本加奈は彼を見上げ、潤んだ瞳には心配の色が浮かんでいた。「大丈夫?薄田正さんが吐血するまで飲んでたって言ってたけど、どうして病院に行かないで喧嘩してるの?」
黒川浩二は数秒間呆然としたあと、薄田正が彼女を騙したのだと気づいた。夜に自分が彼女に厳しい言葉を投げかけたばかりなのに、彼女は自分を守ってくれた。これほど痛がっているのに、自分のことばかり心配している……