第355章：彼は狂っているのか？

夜、寝る前に、メイドがミルクを持って上がってきて、黒川浩二に謝罪した。

黒川浩二は彼女の謝罪を受け入れ、ミルクを飲み終えると横になって眠った。

坂本加奈は彼の隣で横になりたくなかった。何だか変な感じがして、まるで死んだ幽霊のようだったからだ。そのため、普段は床に座り、ベッドの端に寄りかかって、ずっと彼を見つめていた。疲れたら少し眠るだけだった。

深夜、窓の外は月が明るく星が疎らで、辺りは静寂に包まれていた。固く閉ざされていたドアがゆっくりと開かれた。

坂本加奈は不意に目を覚まし、目を開けると誰かがこっそりと部屋に入ってくるのが見えた。

部屋の明かりは消えていた。その人が近づいてくると、窓からの薄い月明かりで、坂本加奈はその人の顔をはっきりと見ることができ、心に不安な感覚が湧き上がった。

「何をするつもり？」

「ねえ！しろちゃんに何をしようとしているの？」

メイドはベッドの傍らに立ち、眠っている黒川浩二をしばらく見つめた後、ついに布団をめくり、黒川浩二を抱き上げた。

坂本加奈は彼女が黒川浩二を抱き上げるのを見て、焦りに胸が張り裂けそうになりながら、必死に叫んだ。「しろちゃん、早く起きて！しろちゃん、起きて！お願い、目を覚まして！！」

メイドは黒川浩二を抱えたまま、そっと階下へ降り、キッチンへと向かった。

彼女は熟睡している黒川浩二を床に寝かせ、近くの調理台に寄りかからせると、傍らの袋を開いて、まだ屠殺されていない雌鶏を取り出した。

坂本加奈はキッチンの入り口に立ち、この光景を目にして、その場で凍りついた。

白川櫻の言葉が脳裏をよぎった。

「彼は8歳の時、自分でキッチンに行って鶏の首を噛みちぎり、生血を飲んだの」

何かを悟った坂本加奈は、彼女の傍らに駆け寄り、ヒステリックに叫んだ。「そんなことしちゃダメ！まだ子供なのよ。あなたに悪いことなんて何もしていないでしょう！復讐するにしても、彼に向けるべきじゃない！」

しかし、メイドには彼女の声は全く聞こえなかった。

彼女は雌鶏を抱えて黒川浩二の傍らにしゃがみ込み、無表情で、目には歪んだような光を宿しながら言った。「私の息子もあなたと同じ年頃だったわ。でも、もう大きくなることはできない。あなたは違う。生まれた時から何不自由なく育ってきた。あなたは多すぎるほど持っている……これは不公平よ！」