坂本加奈は病室の前に立ち、小さなガラス窓越しに西村雄一郎の姿を見つめていた。
「浩二、彼にご飯を届けてきたわ。もう切るね。」
「うん。」黒川浩二は低い声で言った。「彼の世話はいいけど、自分を疲れさせないでね。」
「分かってるわ。」坂本加奈は素直に答え、少し間を置いて甘えた声で付け加えた。「今日も愛してるわ。」
「僕もだよ。」
黒川浩二は電話を切り、目の前のパソコンの画面を見上げた。画面にはまだメールが表示されていた。
携帯を置き、両手を組み合わせて強く握りしめると、関節が徐々に青白くなっていった。
「野村。」
書斎の入り口で待機していた野村渉は呼ばれるとすぐにドアを開けた。「黒川社長、何かご用でしょうか?」
「パリに行って荷物をまとめてくれ。彼女には知らせるな。」