第396章:寵愛を失ったね

夜、坂本加奈と黒川浩二は入浴を済ませ、シルバーのペアパジャマを着てベッドに横たわっていた。

佐藤薫が予想したような、干し草に火がつくような激しい展開にはならず、ただ静かに抱き合って眠るだけだった。

部屋にはオレンジ色のフロアランプだけが灯され、穏やかで温かな雰囲気に包まれていた。

坂本加奈は彼の胸に顔を埋め、力強い心臓の鼓動を聞きながら、甘えるような声で「浩二」と呼んだ。

「ん?」黒川浩二は彼女の背中を優しく撫でた。

坂本加奈はもう一度「浩二...」と呼んだ。

黒川浩二は不思議そうに彼女を見下ろした。

坂本加奈は目を細め、口角を上げて「なんでもない、ただ呼びたかっただけ」と言った。

黒川浩二は心を込めて微笑み、彼女の額にキスをして「ここにいるよ」と言った。

ずっとここにいる。

坂本加奈は彼の胸に寄り添い、かつてない安心感を覚えながら、満足げな溜息をついた。

「浩二、急に幸せすぎて実感が湧かないの」

まるで夢のようだった。

「君はずっと幸せでいられる」

坂本加奈は目を開け、彼の愛情に満ちた瞳を見つめながら頷いた。「私も浩二を幸せにする」

黒川浩二は手を伸ばし、彼女の頬の髪を耳の後ろに掻き上げ、薄い唇を開いて「君は変わったようだ」と言った。

「どこが?」坂本加奈は瞬きをした。

黒川浩二は説明せず、「でも変わっていないようでもある」と付け加えた。

坂本加奈は口を尖らせ「まるで禅問答ね」と言った。

黒川浩二は薄い唇を開き「寝よう。明日は義父母に会いに行くんだ」と言った。

坂本加奈は「うん」と返事をし「浩二、おやすみ」と言った。

黒川浩二は目に笑みを浮かべ「黒川奥様、おやすみなさい」と言った。

坂本加奈は心が柔らかくなり「黒川さん、おやすみなさい」と言い直した。

***

翌朝早く、坂本加奈が起きた時、黒川浩二はすでに朝のジョギングから戻ってきていた。

坂本加奈が階下に降りると、森口花が黒川詩織の車椅子を押して入ってくるところだった。

黒川詩織は興奮のあまり車椅子から飛び上がりそうになり「加奈、やっと帰ってきたのね!昨夜執事から電話があったけど、信じられなかったわ」と言った。

森口花が止めなければ、昨夜にでも来ていただろう。

坂本加奈は彼女に近寄って抱きしめ「久しぶり、詩織!」と言った。