黒川詩織は客席に座り、ステージ上で黒川浩二が坂本加奈のためにピアノを弾き歌う姿を見つめ、その瞳には限りない羨望と感動が浮かんでいた。
森口花は彼女を横目で見て、優しい声で尋ねた。「気に入った?」
黒川詩織は我に返り、彼の目を見つめ返して首を振りながら笑った。「小さい頃から、お兄さんがピアノを弾くところを一度も見たことがなかったの。お兄さんがピアノを弾けることすら知らなかった。他人の前で自分の才能を見せることなんて、今まで一度もなかったのに。それだけ加奈のことを本当に愛しているってことね」
だからこそ、人前で彼女のためにピアノを弾き、歌を歌い、堂々と愛情を示すのだ。
彼女が羨ましく思うのは、お兄さんが坂本加奈のためにこれらのことをしてくれることであり、お兄さんが加奈のためにここまでできることに感動しているのだ。