第424話:無事で良かった

青龍寺。

まだ正月が過ぎていないため、寒さが厳しく、お参りに来る参拝客は少なかった。

西村雄一郎は夜明け前から山に登り、寺院の前の石畳に跪いて、坂本加奈のために真摯に祈りを捧げていた。

皮肉なことに、かつての彼は神仏を敬わず、生死を恐れない傲慢な男だったが、今では仏門の聖地に跪いて、誠心誠意祈っている。

愛する人の平安と幸せを仏様に祈願している。

以前から西村雄一郎に付き従っていた二人の手下は、彼が戻ってきたことを知り、また彼の周りをうろついていた。今は脇で足がしびれるほど蹲っており、でこぼこの石畳に跪いている西村雄一郎はなおさらだった。

「海野様、もう半日近く跪いていますよ。これ以上続けたら、足が駄目になってしまいます」

西村雄一郎は軽く閉じていた瞳を開き、冷たく彼らを一瞥して、薄い唇から冷たい言葉を漏らした。「消えろ」

二人は顔を見合わせ、言いかけて止めた。

彼らは坂本という女が海野様に何か呪いでもかけたのではないかと深刻に疑っていた。そうでなければ、どうして海野様がこんな風に変わってしまったのだろうか。

西村雄一郎は再び目を閉じ、真剣に祈りを捧げた。

これまでの長い年月、彼が抱いていた理想と情熱は白川櫻や西村律樹たちの目には何の価値もなく、彼の絵も正統派の学院派では相手にされなかった。

誰も彼を理解せず、誰も彼の気持ちを分かってくれなかった。しかし坂本加奈は彼の絵を理解し、評価してくれた。その時から、坂本加奈は彼にとって特別な存在となった。

知己であろうと、恋愛感情であろうと、彼はそれほど気にしていなかった。たとえ自分の手がもう絵を描けなくなっても、坂本加奈が絵を描き続けられ、彼に笑顔を向けてくれるなら、何をしても構わなかった。

寒い山風が吹き過ぎ、濃い睫毛が軽く震えた。突然、頬に冷たい感触を感じた。

西村雄一郎が目を開けると、いつの間にか灰色の空から雪が降り始めていた。柳絮のように風に舞い、ひらひらと舞い落ちていた。

突然、携帯が振動し、病院からの電話だった。

彼は電話に出て、かすれた声でゆっくりと「もしもし…」と応じた。

電話の向こうで何か言われ、彼はまず安堵のため息をついたが、数秒後、表情が凍りつき、携帯が手から滑り落ちた。

画面は冷たい石畳に叩きつけられ、瞬時にひび割れた。まるで彼の表情のように…