佐藤薫が目を覚ましたのは翌朝のことでした。熱は下がり、体調もずっと良くなっていましたが、喉がまだ少し痛かったです。
起き上がった時に何かに触れ、振り向くと枕元にモバイルバッテリーと携帯電話が置いてありました。
きっと加奈が誰かに持ってきてもらったのでしょう。
ちょうどその時、携帯電話が鳴り、坂本加奈からの電話でした。
佐藤薫は軽く咳をし、喉を潤してから電話に出ました。
電話の向こうから坂本加奈の優しく心配そうな声が聞こえてきました。「蘭、大丈夫?」
「もう大丈夫よ。助けを送ってくれてありがとう」佐藤薫は明るく答えました。
「よかった。まだ具合が悪かったら、今日帰って病院で看病しようと思ってたの」
「本当に大丈夫だから、絶対に帰ってこないで」佐藤薫は急いで答え、真剣な口調で言いました。「新婚旅行を楽しんでね。私のことは心配しないで!私は丈夫だから、熱なんてすぐに治るわ」
坂本加奈は彼女の声が昨夜よりずっと元気になっているのを聞いて、少し安心しました。「大丈夫なら良かった。何かあったらすぐに教えてね!」
「分かってる」佐藤薫はためらうことなく答えました。「何かあったら真っ先にあなたに連絡するわ。昨夜もそうだったでしょ」
昨夜のことを聞いて、坂本加奈は少し黙った後、尋ねました。「前に彼氏が帰ってきたって言ってたけど、昨夜はどうして一緒にいなかったの?」
角田春樹のことを思い出すと、佐藤薫の表情は寂しげになりましたが、電話越しの坂本加奈にはそれは見えませんでした。
「昨夜は用事があって出かけたの。それに私の携帯は電池切れで電源が切れてたし、彼の電話番号も覚えてないし」
佐藤薫は昨夜のことを話したくありませんでした。心配させたくなかったからです。
「私は両親の電話番号も覚えてないけど、あなたの番号だけは覚えてるの。やっぱり大事な時は親友が一番頼りになるわね」
坂本加奈は彼女の言葉を信じました。「そうね!私もあなたの番号しか覚えてないわ」
大事な時には、お互いが迷わず駆けつけてくれると信じていました。
佐藤薫はこの話題を続けたくなく、さりげなく話題を変えました。「そうそう、昨夜誰に支払いを頼んだの?お金を振り込むから、その人に渡してもらえる?」