佐藤薫はホテルに戻っても角田春樹に電話をかけることを急がず、バスルームでシャワーを浴び、長いTシャツに着替えてソファに座って呆然としていた。
脳裏には、角田春樹と付き合い始めた頃の光景が自然と浮かんできた。
当時彼は投資銀行のエリートで、ぴしっとしたスーツ姿で、顔立ちは黒川浩二たちには及ばないものの、整った顔立ちと穏やかな性格が取り柄だった。
彼女が誤って彼にぶつかり、コーヒーを服にこぼしてしまった時も、怒るどころか笑顔でコーヒーをおごってくれた。
その後、角田春樹は彼女をよくデートに誘い、ショッピングや散歩、サーフィンやオーロラ観賞に連れて行ってくれた。情熱的な追求ではなかったが、心地よい雰囲気で、いつの間にか佐藤薫は彼に心を開いていた。
人間性をそれほど卑劣に考えたくなかったし、好きな男性をそのように疑いたくもなかった。しかし、角田春樹が帰国してから、何か目に見えない形で変化が起きていた……