ドアを開けて出ようとした。
「待て!」坂本真理子は冷たい眼差しを向け、ジッパーを上げながら長い脚で、ゆっくりと彼女に近づいた。
佐藤薫は冷たい金属を握りしめ、後ろから聞こえる足音に、頭を下げたまま地面に穴でも開いて入りたい気持ちだった。
坂本真理子は彼女の後ろに立ち、耳元で囁いた。「角田奥さんは男子トイレで男を見るのが好きなんですね。角田さんはご存知ですか?」
彼の言葉で耳が熱くなったのか、それとも暖かい息が耳に入ったせいか、佐藤薫は思わず振り向いた……
坂本真理子は彼女の突然の動きを予想していなかったため、退く間もなかった。
佐藤薫が振り向いた時、彼は近すぎて、柔らかい唇が彼の頬をかすめた。
一瞬、二人とも固まり、空気が妙な雰囲気になった。
佐藤薫は驚いた子ウサギのように、背中をドアにぴったりとつけ、アーモンド形の瞳をパチパチさせながら、恐れと不安で謝った。「ご、ごめんなさい……」