佐藤薫は食器を持つ手を止め、目を上げて彼女を見つめたまま、しばらく何も言わなかった。
坂本加奈は軽くため息をつき、「お兄ちゃんは昔、ひどい人だったけど、今は本当にあなたのことが好きなの。あの夜、ブルームーンに戻ってきた時、何も言わずにただひたすらお酒を飲んで、最後は意識を失うまで酔っ払って、ずっとあなたの名前を呼んでいたわ。私、お兄ちゃんがこんな風になるのを見たことがなかった」
「本当にもう戻れないの?」
「加奈、ごめんなさい」彼女は唇を噛み、坂本加奈の目を避けた。その態度は既に明らかだった。
坂本加奈の目には失望の色が浮かんでいたが、それでも怒ることはなかった。「謝らなくていいの。分かってるわ。ただ、お兄ちゃんだから、あんなに苦しんでいるのを見たくないだけ」
佐藤薫は目を上げて尋ねた。「最近、どう?」
「あの夜以来、まるで別人みたいになっちゃって、暗い感じで、あまり話さないし、いつも考え事ばかりしてる。両親が叱っても黙ったままで、両親は私に、お兄ちゃんが取り憑かれたんじゃないかって密かに聞いてきたくらい。母は寺で厄除けのお札をもらってこようとしたくらいよ」
坂本加奈は母の言葉を思い出し、苦笑いを浮かべた。
佐藤薫はそれを聞いて胸が痛んだ。彼女は坂本真理子をこんなに傷つけるつもりはなかった。
ただ、坂本真理子に現実を理解してもらいたかっただけ。二人は無理なのだと。
「蘭、大丈夫よ。お兄ちゃんは大人の男なんだから、何とかなるわ」坂本加奈は彼女も暗い表情をしているのを見て慰めた。「時間が経てば、きっと良くなるわ」
佐藤薫は笑顔で「うん」と答えた。
坂本加奈は話題を変えた。「お正月も海外に行くの?」
佐藤薫は彼女を心配させたくなくて、優しい嘘をついた。「航空券が取りにくくて、最終日のしか取れなかったの」
……
大晦日。
佐藤薫は昼まで寝ていて、冷蔵庫からお手伝いさんが前もって作っておいた料理を取り出し、温めるだけで食べられるようにした。
午後は家で映画を見て、LINEで同僚や友達としばらくチャットした。
夕方になると、窓の外で時々花火が打ち上がる音が聞こえ、佐藤薫はあまり空腹を感じなかったが、適当に餃子を何個か茹でて食べ、それを年越しの夕食とした。
LINEグループで墨都の同僚が、今年は白鳥の湖畔で花火ショーがあると言っていた。