佐藤薫は一瞬固まり、思わず彼の束縛から逃れようとした。
坂本真理子は手のひらを締め付け、薄い唇を動かして「動かないで、運転中だから」と言った。
佐藤薫はすぐに動きを止め、ゆっくりと横を向いた。明滅する光の中で男の整った五官がはっきりと見え、端正で深みのある顔立ちだった。彼の手のひらは大きく温かく、彼女の冷たい手をしっかりと包んでいた。
その温度は彼女の手のひらを焼き尽くすほど熱かった。
頭がぼんやりとして、心は乱れに乱れ、ただ窓の外を見つめることしかできなかった……
坂本真理子はそのまま彼女の手を握り続けたまま、車を病院まで運転した。
車から降りる時、坂本真理子は彼女を抱き上げようとしたが、佐藤薫は差し出された手を避けて「自分でできます」と言った。
坂本真理子は無理強いせず、「気をつけて」と言った。
佐藤薫が頭を下げて車から降りると、彼は手のひらを差し出して、彼女が車にぶつからないように守った。
夜間だったため救急外来を受診し、医師は彼女の体温を測ると高熱で点滴が必要だと判断した。
坂本真理子は会計に行き、戻ってきた時には水筒にお湯が入っていた。
点滴室には人が少なく、看護師はすぐに佐藤薫に針を刺した。
「水が飲みたい?」と坂本真理子は尋ねた。
佐藤薫は首を振った。水を多く飲むとトイレに行かなければならなくなり、面倒だと思ったからだ。
坂本真理子は水筒を彼女の側に置き、「じゃあ、飲みたくなった時に飲んで」と言った。
佐藤薫は少し頷き、躊躇いがちな表情で「どうして…私が病気だと分かったんですか?」と尋ねた。
「僕は隣に住んでいて、あなたが一日中部屋から出てこないのに気付いたんだ」バカでも何かあったことは分かっただろう。
佐藤薫は彼が自分の隣に住んでいたとは思っていなかった。「ありがとうございます」
「どういたしまして」
佐藤薫は黙り込み、二人はそのまま静かに座っていた。空気が一時的に静まり返った。
突然、鼻がむずむずして、彼女は思わずくしゃみをした。
坂本真理子は眉をひそめ、立ち上がって自分の上着を脱ぎ、彼女に掛けようとした。
佐藤薫が断ろうとしたが、言葉を発する前に彼に先を越された。
「点滴すると寒くなるから、掛けておいて」
佐藤薫は言おうとした言葉を黙って飲み込むしかなかった。