夜も更け、黒川本邸の人々は全員、使用人たちも含めて就寝していた。
黒川詩織は最後のコードを打ち終え、こわばった首を動かしながら、壁に掛かった時計を横目で見た。
分針は50分を指していた。
11時50分、もうすぐ12時になる。
森口花はまだ帰ってこない。最近、彼の帰りは遅くなる一方だった。
黒川詩織はノートパソコンの電源を切り、携帯電話を手に取って彼にメッセージを送ろうとした時、外から車のエンジン音が聞こえてきた。
彼女は電動車椅子を操作して玄関に向かい、黒いマイバッハが玄関に停まるのを見つめていた。後部ドアが開くと、背の高い男性の姿が目の前に現れた。
森口花は彼女を見上げると、疲れた顔に自然と笑みが浮かび、足早に近づいてきた。
「待っていなくていいと言ったのに、早く休んでほしかったのに」