応接室のドアはガラス張りで、中には細身の女性が座っていた。栗色の大きなウェーブヘア、精巧なメイクをした顔は、とてもファッショナブルで美しかった。
店長が直々に彼女にネックレスを付けてあげると、彼女は鏡の中の自分を満足げに眺め、店長に何か言うと、バッグを手に取って立ち上がった。
店長は急いでドアを開け、彼女は頷いて微笑むだけで感謝の意を示し、赤いハイヒールで颯爽と歩き去った。
黒川詩織は彼女の首に掛かっているネックレスを見て、口元の笑みが凍りついた。
彼女の首のネックレスは、自分が先ほど付けていたものと全く同じだった。
女性は黒川詩織が自分を見ていることに気付かず、まっすぐに出口へ向かい、店長は最後まで付き添って見送った。
彼女がホールを通り過ぎる時、空気中に微かな香りが漂った。
黒川詩織の頭の中で「ガーン」という音が鳴り響き、爪が掌に食い込んだ。
この香り、昨夜森口花の体から嗅いだような気がした。
気がしたというより、確かに嗅いでいた。
黒川詩織の心臓が激しく鼓動し、ガラスドアの外に乗車した女性を振り返って見つめ、すぐに視線を落とした。
「森口奥様、ネックレスをお包みいたしました」
販売員が丁寧に袋を両手で差し出した。
黒川詩織は袋を受け取り、少し躊躇した後で尋ねた。「先ほど応接室から出てきた方は誰ですか?とても綺麗な方でしたね」
「松岡お嬢様のことですか」販売員は残念そうに首を振った。「私も詳しくは存じませんが、いつもいらっしゃる時は店長が直接対応させていただいております」
黒川詩織は爪を紐に食い込ませながら、顔に無理やり笑みを浮かべて「ありがとうございます」と言った。
宝石店を出ると、野村渉が前に進み出て尋ねた。「お嬢様、会社へ向かいますか、それともお帰りになりますか?」
黒川詩織は先ほどの女性の顔が頭から離れず、顔色が酷く青ざめていた。歯を食いしばっていた唇を緩め、やっとの思いで「帰る」と二言を絞り出した。
……
森口花はその夜残業も接待もなく、早めに帰宅して黒川詩織と夕食を共にした。
リビングに入っても見慣れた姿が見当たらず、上着を使用人に渡しながら尋ねた。「詩織は?」
使用人は答えた。「お嬢様は午後からお部屋に戻られ、ずっと出てこられていません」
森口花は眉をひそめ、大股で部屋へ向かった。