清風堂医院。
黒川詩織は入り口の看板を見上げ、目に迷いと不安が浮かんだ。
漢方医は本当に自分の足を治せるのだろうか?
彼女の後ろに立っていた野村渉が尋ねた。「入りますか?」
黒川詩織は我に返り、頷いた。
野村渉が彼女を押して中に入ると、診療所は広く、壁には広告などはなく、壁際に観葉植物が二鉢置かれているだけだった。
奥に進むと、診療室に白衣を着た男性が立っていて、白いマスクをしており、目だけが見える状態で、その目は明るく澄んでいた。
彼の手は長く、白く細かった。指先で鍼を持ち、ツボに正確に打っていく。その手つきは安定していて的確だった。ベッドに横たわる患者も何の反応も示さず、リラックスした表情を浮かべていた。
男性は振り返らなかったが、後頭部に目でもあるかのように彼らの存在に気付いていた。「診察室で待っていてください」
冷たい声で、感情の欠片も感じられなかった。
野村渉は黒川詩織を診察室へ押して行った。
診察室には薄い薬の香りが漂い、机の上には診療記録と消毒用ハンドジェル、そしてパソコンが置かれていた。
脇には棚があり、薬品などが並べられていた。
しばらくすると、診療室の男性が戻ってきた。マスクを外してゴミ箱に捨て、座りながらハンドジェルで手を消毒し、車椅子に座る黒川詩織を見た。
「CTと診療記録は持ってきましたか?」
「はい」黒川詩織は答え、野村渉に自分のCTと診療記録を医師に渡すよう頼んだ。
男性はそれを受け取り、開いて丁寧に見始め、一言も発しなかった。
黒川詩織は少し緊張して唾を飲み込み、彼の手から視線を胸元の名札に移した。
——海野和弘。
海野和弘は長い間見た後、ようやく全ての診療記録を置き、簡潔に言った。「治療は可能です。ただし、痛みを伴い、治療費も安くはありません」
「治療費は問題ありません」黒川詩織は急いで答え、彼の目を見つめながら躊躇いがちに尋ねた。「本当に痛いんですか?」
海野和弘は無表情で答えた。「とても痛いです。家に帰って考えてから来てください」
黒川詩織はほとんど躊躇うことなく答えた。「考える必要はありません。治療を受けます」
海野和弘は彼女を見もせずに言った。「身分証を下さい。まずカルテを作ります。その間、治療室で待っていてください」
黒川詩織はバッグから身分証を取り出して彼に渡した。