清風堂医院。
黒川詩織は入り口の看板を見上げ、目に迷いと不安が浮かんだ。
漢方医は本当に自分の足を治せるのだろうか?
彼女の後ろに立っていた野村渉が尋ねた。「入りますか?」
黒川詩織は我に返り、頷いた。
野村渉が彼女を押して中に入ると、診療所は広く、壁には広告などはなく、壁際に観葉植物が二鉢置かれているだけだった。
奥に進むと、診療室に白衣を着た男性が立っていて、白いマスクをしており、目だけが見える状態で、その目は明るく澄んでいた。
彼の手は長く、白く細かった。指先で鍼を持ち、ツボに正確に打っていく。その手つきは安定していて的確だった。ベッドに横たわる患者も何の反応も示さず、リラックスした表情を浮かべていた。
男性は振り返らなかったが、後頭部に目でもあるかのように彼らの存在に気付いていた。「診察室で待っていてください」