森口花は彼女のことが好きだと一度も言ったことがなく、松岡菜穂のことが好きではないとも否定したことがなかった。
……
森口花は黒川詩織に病院で付き添わせたくなかったので、野村渉に彼女を連れて帰って休ませるように頼んだ。
翌日、黒川詩織は彼のことが心配で、朝早くに朝食を持って病院に見舞いに行った。
森口花は検査を終えたばかりで、検査結果を待っている間、黒川詩織に一緒に朝食を食べようと誘った。
黒川詩織は彼の膝の傷を見て眉をひそめた。「傷がまだ出血しているの?」
「さっきの検査で少し当たってしまったんだ」彼は軽く答えた。
「どうしてそんなに不注意なの」黒川詩織はベッドサイドの綿棒を取り、ゆっくりと傷口の血を拭き取った。
「もうすぐ結果が出るから、問題なければ退院するよ」
黒川詩織は頷いた。「うん」
視線と注意は彼の傷に集中していた。
森口花は続けて言った。「一緒に来てくれないか?」
黒川詩織は顔を上げ、不思議そうな目で彼を見た。「会社に一緒に行くの?」
森口花は頷いた。「君が僕の森口奥様だということを皆に知ってもらわないとね。それに、僕は君を助けようとして怪我をしたんだから、君が責任を持って看病して、包帯を替えてくれないと」
黒川詩織は少し躊躇してから、彼の怪我した膝を見て頷いた。「わかったわ。じゃあ、足が良くなるまで看病するわ」
ただ、これでは清風堂医院に行けないから、海野先生に電話して説明しないといけない。
検査結果が出て、森口花は大丈夫だということで、ボディーガードに退院手続きをしてもらった。
黒川詩織は彼が再び傷口を出血させることを心配して、車椅子に座るよう主張した。
森口花は車椅子に座って横を向いて彼女を見て、思わず笑みを浮かべた。
黒川詩織は不思議そうに「何を笑ってるの?」と聞いた。
「運が良かったなと思って。ただの擦り傷で済んだけど、もし本当に不自由になっていたら、僕たち二人はどっちがどっちの面倒を見ることになったかな?」森口花は軽く笑いながら言った。
黒川詩織は軽く唇を尖らせて、「私はあなたに面倒を見てもらいたくないわ。自分のことは自分で出来るもの」と言った。
私の足が完全に良くなったら、自分の面倒だけでなく、あなたの面倒も見られるようになるわ。