「まさか!」もう一人が驚いて言った。
「何がまさかよ。黒川詩織と結婚しなかったら、森口花なんて出自で若くして黒川グループの社長になれると思う?」
「でも森口花は有能だって聞いたわ。黒川社長は彼の能力を買ったんじゃない?」
「能力はあるかもしれないけど、妹婿でなければ、外部の人間に会社を任せるわけないでしょ?」
「そう考えると黒川詩織って可哀想ね。両足が不自由で、夫は会社のために結婚したなんて...ツッツ...」
二人は外で同情の声を漏らして、立ち去った。
個室に隠れていた黒川詩織は何度も彼女たちの口を引き裂きたい衝動に駆られたが、最後まで我慢した。
出て行けば森口花を信じていないことになる。彼女たちと口論しても何も解決しない。噂が広まれば、また笑い者になるだけだ。
しばらくトイレに留まり、感情を落ち着かせてからホールに戻ったが、森口花の姿は見当たらなかった。誰かと商談しているのだろうと気にしなかった。