第572章:おめでとう、森口社長

「ママ」という一声で黒川詩織の顔に笑みが浮かび、思わず声が柔らかくなった。「ママは外で忙しいの。仕事が終わったら帰って会いに行くから、いい子にしていてね」

向こうの小さな子は頑固に「ママ」と呼び続けていた。

黒川詩織はお手伝いさんに電話を代わり、いくつか指示を出してから、可愛い子を寝かしつけるよう頼んだ。

電話を切ると、彼女は頭を後ろに傾け、グラスの酒を一気に飲み干した。

部屋に戻って休むことにした。

***

森口花は病院の病室で松岡菜穂に一晩付き添った後、翌朝早く出発した。

まず家に帰ってシャワーを浴び、きれいな服に着替え、それから秘書に黒川詩織がいつ戻ってきたのか、今どこに住んでいるのか調べるように指示した。

会社に着くと、秘書が報告に来た。黒川お嬢様がいつ戻ってきたのか誰も知らず、黒川家でさえ連絡を受けていないとのこと。黒川お嬢様は現在黒川家には戻っておらず、具体的な居所はまだ調査中だという。