第575章:タバコは体に悪い

黒川詩織の電話が切れて二分もしないうちに、支配人が近づいてきた。

まず丁寧に「黒川お嬢様」と呼びかけ、それから冷ややかな表情で松岡菜穂と森口花を見た。

「申し訳ございませんが、お二人様のご利用はお断りさせていただきます。お帰りください」

「なぜですか?」松岡菜穂は納得できない様子で問い詰めた。「私は会員で、お金も払っています。勝手にお断りするなんて、プロ意識がないですね。消費者センターに通報しますよ」

支配人はそれを聞いても動揺する様子もなく、むしろより冷淡な口調で言った。「会員費とカードの残高は、お客様の口座に返金させていただきます。通報に関しては、ご自由にどうぞ」

店は合法的に営業しており、手続きも整っていて、きちんと納税もしている。面倒な客を一人二人断ったところで、消費者センターも取り合わないだろう。

松岡菜穂は憤慨した。この店は墨都で最も評価の高い店で、多くの人が来たくても来られない場所だった。

お金があっても来られないなんて、誰が想像しただろうか。

黒川詩織は彼女が激怒している様子を見て、思わず笑みを漏らした。「松岡菜穂、森口花のちっぽけな金で墨都で好き勝手できると思ったの?上流社会は、あなたたちが想像するほど単純じゃないわ」

墨都の主要な家族は密接に協力し合い、彼らのような者には想像もつかないような人脈を築いている。

時には彼らの何気ない一言で、普通の会社を潰すことだってできる。

森口花の会社が墨都で足場を築けたのは、彼の実力もあるが、黒川浩二が何も言わなかったからでもある。そうでなければ、墨都で会社を開くことすらできたかどうか試してみればいい。

松岡菜穂は唇を強く噛みしめて黙っていた。どれほど納得できなくてもどうしようもない。

現実はこれほど残酷で、森口花が今は金を稼ぎ、地位も身分もあるとはいえ、この金持ち連中の目には、まだまだ頭が上がらない存在なのだ。

黒川詩織は支配人の熱心な案内で、VIPルームへと向かった。

松岡菜穂が前に出ようとしたが、森口花に引き止められた。「帰ろう」

「花」彼女は口を開き、不満が溢れていた。

「エステサロンはたくさんある。ここでなくてもいい」森口花は穏やかな声で言った。「彼女は黒川浩二の妹だ。それは誰にも変えられない事実だ」