黒川詩織の電話が切れて二分もしないうちに、支配人が近づいてきた。
まず丁寧に「黒川お嬢様」と呼びかけ、それから冷ややかな表情で松岡菜穂と森口花を見た。
「申し訳ございませんが、お二人様のご利用はお断りさせていただきます。お帰りください」
「なぜですか?」松岡菜穂は納得できない様子で問い詰めた。「私は会員で、お金も払っています。勝手にお断りするなんて、プロ意識がないですね。消費者センターに通報しますよ」
支配人はそれを聞いても動揺する様子もなく、むしろより冷淡な口調で言った。「会員費とカードの残高は、お客様の口座に返金させていただきます。通報に関しては、ご自由にどうぞ」
店は合法的に営業しており、手続きも整っていて、きちんと納税もしている。面倒な客を一人二人断ったところで、消費者センターも取り合わないだろう。