「金なんて糞だけど、稼げるものは稼がないとね」葉月葵は明るい声で言った。「あなたの元夫の金なら、なおさら稼がないとね。思いっきり搾り取ってやりましょう!そうでないと、あなたが受けた苦労が報われないわ」
「でも——」
黒川詩織はまだ躊躇していた。森口花との協力は避けたく、彼との関わりを一切持ちたくなかった。
「詩織ちゃん、本当に彼と関わりたくないなら墨都に戻るべきじゃなかったわ。墨都に戻ってきた以上、協力しなくても彼と顔を合わせることになるわよ」
葉月葵は彼女より多くの経験を持ち、物事を見通す目も優れており、その心の広さは誰にも及ばなかった。
「縁のある人は、どこに行っても巡り会うものよ。縁のない人は、手錠で繋いでも最後には別れる。一生逃げ続けることはできないわ」
黒川詩織は黙ったまま返事をしなかった。彼女はまだ師匠のような境地には達していなかった。人と人との関係をただのビジネスとして見ることができなかった。
「まあいいわ。そっちの会社はあなたに任せたんだから、決定権はあなたにあるわ」葉月葵は開明的な上司で、この小弟子にはやや甘かった。「たとえ儲からなくても、破門にはしないわよ」
結局のところ、大弟子は冬眠のように突然姿を消すので、この小弟子にディープウェブを見てもらうしかなかった。
「分かりました、師匠」
黒川詩織は電話を切り、VIPルームにいる森口花の方を見た。彼はソファに座り、茶碗を手に静かにお茶を味わっていた。
しばらくの沈黙の後、彼女はVIPルームに入り、冷静なビジネスライクな口調で言った。「本当に私たちと協力したいんですか?」
森口花は頷いた。
「最初に言っておきますが、もし協力するなら、価格の交渉の余地はありません。また、協力の詳細や全ての連絡は他の者が担当します。私はあなたの会社のその後の問題には一切関与しません」
金は稼ぐが、人には会いたくなかった。
森口花は薄い唇を少し動かした。「それは少し損な気がしますね」
商人が利益を追求するのは本能だった。
「承諾しなくても構いません」
「承諾します」森口花は躊躇なく答えた。「損をしても承諾します」
これは彼女に近づける唯一の方法だった。たとえわずかな希望でも、手放したくなかった。
黒川詩織は軽く頷いた。「では詳細を話し合う者を派遣します」