第602章：公衆の前でプロポーズ

「どうしてここに来たの？」黒川詩織は落ち着いて尋ねた。

「この数日間、よく考えた」海野和弘は人前で口を開き、冷たい声がゆっくりと響いた。「やっぱり君と一緒にいたい。結婚して、人生を共にしたい」

黒川詩織の心が震え、一瞬息を止めて言葉を失った。

海野和弘のような孤高な性格の人が、人前で告白するなんて思いもよらなかった。

海野和弘はポケットから赤いベルベットのケースを取り出し、人前で開くと四角いダイヤの指輪が、クリスタルシャンデリアの光の下で一層輝きを増した。

黒川詩織の黒白はっきりとした瞳孔が突然広がり、完全に呆然としてしまった。

彼は...公開プロポーズをするつもり？

「公開プロポーズをして、プレッシャーをかけるつもりはない。ただ、ここにいる皆さんに証人になってもらいたかっただけだ。この婚約指輪は用意した。君が私と結婚したいと思うまで、預かっておいてほしい。私の両親のことは心配しなくていい...」

海野和弘は指輪を彼女の前に差し出し、確固たる眼差しで言った。「これから何が起ころうと、必ず揺るぎなく君の側に立つ」

その言葉の意味は明確だった。両親と黒川詩織の間で、彼は後者を選んだのだ。

黒川詩織は止めていた息をゆっくりと吐き出し、自分の声を取り戻した。「海野和弘、私は今結婚する予定はないから...」

感動はしているが、もう18歳の少女ではない。感動だけで何も考えずに行動するわけにはいかなかった。

「だから言ったように、一時的に預かってもらえばいい。将来、結婚したいと思うようになるか、私から離れたいと思うまで。いつでも返してくれていい」

海野和弘は婚約指輪を受け取るよう主張した。

黒川詩織は不思議と緊張し、掌の傷跡を指先で押さえながら、思わず黒川浩二の方を見た。助けを求めるような様子で。

黒川浩二は妻の細い腰に手を回し、落ち着いた表情で中谷仁たちと共に成り行きを見守っていた。彼女を助け出す気配は全くなかった。

これだけの人前で、海野和弘を拒否し続ければ、彼の立場がなくなってしまう。

それに、彼の要求もそれほど無理なものではなかった。

少なくとも、公開プロポーズで彼女を困らせることはしなかった。

黒川詩織は周囲の期待の中、指輪と花を受け取った。