第605章:ずっとそばにいる

野村渉は彼女の頬に流れる涙を見つめ、手を伸ばして拭いてあげたい衝動に駆られたが、指先が震えた後、結局そうすることはできなかった。

「あなたは何も悪くない。悪いのは奴らだ」

彼は不器用で、人を慰めるのが下手だった。この一言が、彼の精一杯の慰めの言葉だった。

黒川詩織は膝を曲げ、横向きに膝に頭を寄せ、歯で唇を噛みしめながら、大粒の涙を流した。

「でも、みんな私を騙してた。みんな嘘をついてた...」

声は詰まり、悔しさと悲しみに満ちていた。

彼女はあれほど森口花を好きだったのに、森口花は彼女の感情を利用して利益を得ていただけだった。

彼女は海野和弘の人柄を信じ、新しい関係を始めようとし、さらには彼のプロポーズを受け入れることさえ考えていた。しかし——

海野和弘も彼女を騙していた。彼女への復讐だったのだ。

もう酒も飲めなくなり、彼女は顔を埋めて泣き始めた。

声を上げて泣きじゃくった。

野村渉は隣に座って彼女の悲しむ姿を見ながら、胸が痛み、海野という男を殺してやりたいほどだった。

どれくらい泣いていたのかわからないが、黒川詩織はカーペットの上で朦朧と眠りについた。眉間にしわを寄せ、目尻にはまだ涙が光っていた。

野村渉は酒瓶の残りを飲み干し、立ち上がって彼女を抱き上げ、寝室へと運んだ。そっとベッドに寝かせ、布団をかけてやった。

彼女の目尻の涙を見つめながら、心が鈍い刃物でゆっくりと切り裂かれるような痛みを感じた。

たこのできた指先が、ようやく勇気を振り絞って、そっと彼女の頬の涙を拭った。

おそらく黒川詩織が眠っていたか、あるいは酒に酔って正気を失っていたのか、彼は初めて自分の立場を忘れ、二人の間に横たわる越えられない溝を忘れ、身を屈めて彼女の額にかすかな、かすかなキスをした。

「俺は、絶対にお前を騙したりしない。そしていつもそばにいる」

たとえボディーガードという立場でしかなくても。

***

黒川詩織はこの酔いで、そのまま病に倒れた。

幸い野村渉が心配して夜中に様子を見に来て、高熱を出しているのを発見し、すぐに病院へ連れて行った。

点滴を打ち、解熱し、一晩中苦労した末、ようやく夜明け近くになって黒川詩織の高熱は下がった。

医師は心配で、半日の経過観察を勧め、問題がなければ午後には退院できると言った。