第611章:卑劣のままに

「スマートフォンを見るか、オフィスに戻ってもいいよ」

森口花は平然と答えた。「でも、君のことだけを見ていたいんだ」

黒川詩織:「……」

ずうずうしい!

心の中で罵りながら、オフィスチェアを回転させ、外の夜景に向かって背を向けた。

森口花の視線は彼女の後ろ姿から床までの窓へと移った。

明るい照明のせいで、彼女の清楚な顔がガラスに映り、その表情がはっきりと見えた。

彼はそのようにガラスに映る影を見つめ続け、いつの間にか眠りについた。

目が覚めたのは、キーボードの鮮やかなタイピング音がしたからだった。

目を開けると、黒川詩織がパソコンの前に座り、可愛らしい顔に真剣な表情を浮かべ、細くて白い指が素早くキーボードを打っているのが見えた。その速さは残像が見えるほどだった。

森口花は彼女の邪魔をしないよう、静かに傍らで見守っていた。

画面に映るコードなどは理解できなかったので、しばらく見ていたが、やがて彼女の顔に視線を移した。

彼の詩織は本当に成長し、一人前になったのだ。

時間が少しずつ過ぎていき、黒川詩織はついに作業を止め、疲れて痛む指を振り、こわばった首を回した。

「お疲れ様」彼が最初に言ったのは問題が解決したかではなく、「お疲れ様」だった。

温かい水が彼女の前に置かれた。

黒川詩織は確かに喉が渇いていたので、遠慮なくコップを取り、一気に飲み干した。「相手のIPアドレスを追跡できました。朝になったら村上社長に報告して、彼らのサーバーは終わりですね」

森口花はそういったことは分からなかったので、「君に任せるよ。君を信じているから」

黒川詩織は横目で彼を見たが、彼の優しく情熱的な眼差しに触れると、すぐに目を伏せ、視線を別の方向に向けた。

ガラス窓の外は薄暗く、東の空の一角に光が見え始めていた。まるで土を突き破って芽を出そうとする種のように、懸命に土を押し開いて頭を出そうとしていた。

「夜が明けましたね」彼女は立ち上がり、コートラックに向かって自分の上着を取った。「もう彼らは来ないでしょう。私は帰ります」

森口花の目に名残惜しさが浮かんだ。彼女がこうして去ってしまえば、次に会えるのはいつになるか分からないのだから。

「一緒に行くよ」一秒でも長く一緒にいられるならそれでいい。