雪月餅

ヴァレンは数秒間凍りついた後、ジェスリンを押しのけた。

彼の抵抗を感じ、ジェスリンは抱擁を解いた。すると、ヴァレンの顔が怒りで真っ赤になっているのが見えた。

彼は左手の人差し指でジェスリンを指さした。その指は震え、体全体も同様だった。

「お、お前、お前は―」ヴァレンは罵倒の言葉を投げかけようとしたが、混乱した表情で見つめる美しいジェスリンの顔を見た途端、言葉が喉に詰まった。

ヴァレンは歯を食いしばり、ジェスリンを睨みつけると、背を向けて激しく部屋を出て行った。

ジェスリンは、少年が左手の力を振り絞ってドアを激しく閉める様子を見つめていた。

ジェスリンがマーベリックの方を見ると、彼は頭を下げて書き物をしていた。

「あなたの息子...私に怒っているんですか？」彼女は尋ねた。

「ふむ」マーベリックは顔を上げずに答えた。

「私、何か悪いことをしましたか？」ジェスリンは小さな声で尋ねた。

マーベリックは顔を上げて彼女を見た。彼女が控えめに見返してくるのを見て、ゆっくりと頷いた。

「な、何をしたんですか？」ジェスリンは唖然とした様子だった。たった今、何か悪いことをした覚えはなかった。

「あいつは抱擁が嫌いなんだ。特に女性からの抱擁はね」彼はそう言って、また書き物に戻った。

ジェスリンは慌てた。「じゃあ、じゃあ、どうやって謝ればいいんですか？」

マーベリックはしばらく黙っていた。これまで誰もヴァレンを慰めたことがなかったので、彼女を助けることができなかった。

ジェスリンは落胆してため息をつき、ソファに座り直した。

「君自身も子供のような振る舞いをするね。落ち込んだ時、何があれば嬉しい？」マーベリックは書き物に目を向けたまま尋ねた。

「私の顔です」彼女はくすくすと笑った。

マーベリックは顔を上げてその顔を見た。確かに、彼が今まで見た中で最も美しい顔の一つだった。

彼は無意識のうちに、ジェスリンの顔を記憶の中の顔と比べていた。もう一人の少女は丸顔で青い目をしていた。ジェスリンの顔はいわゆるV字型で、琥珀色の目を持っていた。

二人の少女は全く似ていなかったが、しかし...

マーベリックは我に返り、ジェスリンが自分の顔に触れているのを見た。

「私、綺麗でしょう？」彼女は子犬のような目で尋ねた。