第60章 『寂默』

小谷千秋は眉をひそめ、尋ねた。「これは誰の曲?」

沢井千惠は躊躇いながら口を開いた。「私の娘が作った曲です。」

「あなたの娘?」木村卓司は笑い出した。「ああ、そうか。海王はもう正式な作曲家がいないから、まともな曲も出せなくなって、娘の曲で間に合わせているわけか?」

彼は小谷千秋の手にある曲を一瞥し、『寂默』を見て、さらに大きく笑った。「まさか、この二文字で話題作りをするなんて。」

沢井千惠は理解できず、眉をひそめて尋ねた。「この曲名がどうかしましたか?何か問題でも?」

木村卓司は言った。「問題というわけではありません。ただ、かつての細川奈々未先生が、筆を置く前に、次の曲は『寂默』という名前にすると公言していたんです。『寂寞』の『寞』ではなく、『沈默』の『默』です。でも、その曲を発表する前に、何らかの理由で突然引退してしまった。それ以来、業界のどの作曲家も、細川先生への敬意を表して、この言葉を曲名に使うことを避けてきたんです。あなたの娘は、いきなり細川先生に挑戦するようなまねをして、本当に分不相応ですね!」