第61章 6年前、彼らが初瀬愛した日

芸能界の風紀が悪く、新人が他人の人気にあやかって出世しようとする例は枚挙にいとまがありません。

小谷千秋は真の歌手として、そういったことを最も嫌悪していました。

彼女は複雑な表情で『寂默』を見つめ、その二文字だけで胸が締め付けられるような感覚に襲われました。

誰も知らないことですが、小谷千秋は当時、細川奈々未の曲が大好きでした。

細川奈々未の曲には豊かな人生経験が詰まっており、その音楽は様々な人生を語っているかのようでした。

砂漠を駆け抜けるような曲もあれば、草原で歌い上げるような曲もあり、魂の叫びのような曲もあれば、永遠の愛を語る曲もありました。

小谷千秋は彼の曲を聴くたびに陶酔し、当時ネット上では細川奈々未は40代のおじさんではないかと噂されていたほどでした。