第62章 右腕の傷跡

彼らの出会いの物語は少し陳腐だった。

20歳の沢井恭子は怒りに満ちていて、今のような穏やかさはなかった。

その日、F国で任務を遂行中、彼女はぴったりとしたスポーツウェアを着て歩いていた時、数人のチンピラに出くわした。

F国の街のチンピラたちは皆背が高く、がっしりとしていた。一方、彼女は華奢で痩せていて、どう見ても狙われやすそうな人に見えた。

沢井恭子はその時、目を伏せ、唇の端に不敵な笑みを浮かべていた。

彼女は手首をもみほぐし、目の前の数人をこらしめて、ついでにストレス発散をしようと準備していた。

数人が近づいて手を出そうとし、一人の手が彼女に触れそうになった時、骨ばった大きな手が横から伸びてきてその下品な手を掴み、力を込めて地面に叩きつけた。

それは佐藤大輝だった。

彼の助けは必要なかったが、誰かが手を出してくれたので力を使わずに済んだ。そこで腕を組んで傍観することにした。

佐藤大輝の足取りは少し乱れ、呼吸も不安定だった。

それでも、彼は数人を倒し、彼女を冷たく見つめて言った。「固まってどうしたんだ?早く逃げろ」

沢井恭子は動かず、ただ彼の顔を見つめていた。

男の頬にはまだ幼さが残っていたが、瞳は黒く、大きな切れ長の目の端が少し上がっていて、高い鼻梁の下には程よい厚さの唇があった。

とても整った美しい顔立ちで、まるで漫画から飛び出してきた王子様のようだった。

その日は暗雲が立ち込めていたが、彼がそこに立っているだけで、まるで太陽が雲を突き抜けて空を明るく照らしているようだった。

それが彼女の人生で初めての胸の高鳴りだった。

……

「つまり、一目惚れだったのね?」佐藤さんはここまで聞いて、からかうように言った。「私が言うのもなんだけど、私の子供たちの中で、大輝が一番見た目がいいのは確かよ。目の付け所がいいわね」

沢井恭子は軽く微笑んだ。

佐藤さんは再び尋ねた。「でも大輝が本当にそんな親切に助けるなんて?恭子さん、私が知っている大輝とは別人のような気がするわ」

沢井恭子は彼女を見つめて言った。「あの日、私を助けた時、腕をチンピラに切られたんです。5、6年経っても、傷跡は残っているはずです」