第76章 恩人~

沢井恭子は彼の言葉を無視した。

佐藤大輝が一本の電話をかけると、整形外科の田中院長が大勢のスタッフを引き連れて階下に降りてきて、彼らの前に現れた。「佐藤さん、患者さんはどちらですか?」

佐藤大輝は老人を指さした。

田中院長は一歩前に出て、暴れる老人を押さえつけさせ、病院の中へ連れて行った。

その間、老人が電話をかけているのが聞こえた。「もしもし、警察ですか?通報したいんですが、ここで強制的に診察させられています...はい、住所は...」

「おい、このバカ息子、どこにいるんだ?親父が病院で金を巻き上げられそうなんだ!早く助けに来い!」

老人は電話をかけながら、手術室に押し込まれた。

外では、警察が到着し、沢井恭子と佐藤大輝の行く手を阻んで、老人が手術室から出てくるまで待つように言った。

二時間後、老人が手術室から運び出されてきた。出てくるなり、すぐに沢井恭子に向かって罵声を浴びせた。「この小娘め、緊急手術だと騙して、費用を倍にしやがって。この金は払わんぞ!それにこの病院も、ひどすぎる。ただの整形外科の診察で薬をもらうつもりだったのに、誰が手術を頼んだ?警察官、こういう強制的な商売は厳しく取り締まってください!」

警察官が何も言わないうちに、手術を終えたばかりの田中院長が手術室から出てきて、すぐに口を開いた。「黙りなさい。この女性がいなければ、あなたの足は終わっていたんですよ!」

老人は納得がいかない様子で「人を脅すんじゃない、お前...」

言葉が終わらないうちに、田中院長は近くのレントゲン写真を取り上げ、指さしながら説明した。「これはあなたの手術前のレントゲンです。ここを見てください...これは普通の骨折ではありません。この骨片が動脈血管と末梢神経を圧迫していて、血液の循環が悪くなっています。さらに神経が圧迫されてから三時間以上経過していれば、この足は二度と使えなくなっていたでしょう!」

老人は紀代実と驚き、突然、この女性が最初に会ったときに怪我をしてからどのくらい経ったのか尋ねてきたことを思い出した...