第65章 手のひら返し！！

小谷千秋の視線は楽譜から全く離れることができず、彼女が楽譜を見つめる表情には、何か異常なものが感じられた。

隣にいたアシスタントがその様子に気づき、急いで優しく呼びかけた。「小谷さん？先生？」

しかし小谷千秋にはもう何も聞こえていなかった。彼女は全身全霊をこの楽曲に注ぎ込んでいた。一つ一つの音符が彼女の脳裏で舞い踊るように、彼女はその中に深く沈み込んでいった。

オーケストラの様々な組み合わせは、五十嵐中雄さんの曲よりも流麗で、すべての音楽が「寂默」というこの二文字を表現しているかのようだった！

「先生、先生？」

突然アシスタントに肩を揺さぶられ、小谷千秋はようやく我に返った。彼女は信じられない様子で沢井恭子を見上げた。

アシスタントは彼女の様子がおかしいのを見て、もしかして沢井恭子の曲があまりにもひどかったのだろうかと思った。

そう考えていると、小谷千秋が突然立ち上がり、沢井恭子に深々と頭を下げた。「申し訳ありません。先ほどは私が早合点してしまいました。あなたの楽譜を見もせずに、若いからろくな譜面が書けないと決めつけてしまって……」

沢井恭子はこういうことには慣れていた。「気にしないでください」

小谷千秋は唾を飲み込んで言った。「今すぐにこの曲のレコーディングを始めます！少々お待ちください！」

そう言うと、彼女は急いで家のレコーディングスタジオに駆け込み、アシスタントに叫んだ。「デモテープを持ってきて！」

「は、はい！」

アシスタントは状況が飲み込めないまま、USBメモリを持って追いかけて入った。小谷千秋が楽譜を握る手に力が入っているのが見えた。まるで楽譜が逃げてしまうのを恐れているかのように、かと言って紙を破ってしまわないように慎重に……

アシスタントは彼女に十数年も付き添ってきたが、小谷千秋がこれほど取り乱した様子を見たのは初めてだった。

デモテープをパソコンにコピーしている間、アシスタントは尋ねた。「この曲は、五十嵐中雄さんが書いた曲と比べてどうですか？」

小谷千秋は彼女を見た。「比べものになりません！」

彼女は楽譜を胸に抱き寄せ、目を潤ませながら、まるで至宝を抱くかのように言った。「もし私の推測が正しければ、これは細川奈々未先生の曲です！」