「そんなはずがない!」木村卓司は驚いて叫んだ。「細川奈々未先生はもう引退して、五年も新曲を出していないのに、どうしてあなたに二曲もあるの?」
金城栄治も信じられない様子で彼女を見つめていた。
沢井恭子は二人を無視し、景山誠の方を見た。「お父さん、準備して。小谷千秋さんがもうすぐ終わるはずだから」
「わかった」
景山誠は金城栄治の方を向いて言った。「君が細川奈々未先生の曲を歌いたがっているのは知っているよ。でも残念だけど、私が先に歌わせてもらうことになった。来月の音楽チャートで会おう」
そう言って立ち上がり、金城栄治の傍を通り過ぎる時にため息をついた。「私は歌うのをやめて、素直に演技だけに専念したかったのに、なぜか細川奈々未先生に気に入られて、どうしても彼女の曲を歌えと言われてしまって、はぁ……」