第68章 絶望の感覚

山村治郎も音楽のことはよく分かりませんでした。

彼は直接このデモ音源を業界の有名な作曲家たちに転送して評価を仰ぎ、そしてメールを閉じて、沢井恭子に「?」とだけ送信しました。

沢井恭子は返信しました:【この曲は父に歌わせるの。】

山村治郎:【今回はあなたが作ったの?】

このメッセージを送信すると、相手は立て続けに三つのメッセージを返してきました:

【いいえ。】

【細川奈々未先生が作ったの。】

【以上!】

山村治郎:「……」

この適当な態度、関係を否定する焦り……知らない人が見たら、あなたが細川奈々未本人だと思うでしょう!

細川奈々未が作ったのなら、しかも作曲家たちからすぐに返事が来たということは、これは『寂黙』に劣らない曲だということです!そこで山村治郎は直接翌日に、景山誠と小谷千秋が一緒に新曲のレコーディングを行うよう手配しました。

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翌日の早朝、景山誠はのんびりと起床し、沢井千惠に急かされてレコーディングスタジオへ向かいました。

海浜市には高性能な設備を持つレコーディングスタジオが少なく、海王エンターテインメントの歌手級のアーティストも少ないです。今は歌で稼ぐのが難しくなり、みんな演技の方に傾倒しているため、海王エンターテインメントは自前のレコーディングスタジオを持っていません。そのため、一行は早朝からどやどやとレンタルスタジオに向かいました。

沢井恭子も一緒に行きました。

彼女は小谷千秋のことは心配していませんでした。プロの歌手ですから。むしろ景山誠が音程を外さないか少し心配でした。普段からかなり調子はずれな人ですから。

現場に着くと、スタジオのスタッフがすぐに笑顔で迎えに来ました:「小谷先生、昨日の予約では先にお入りいただくことになっていますね?こちらへどうぞ。」

小谷千秋はすでにその曲に慣れていたので、うなずいてスタジオの責任者について行きました。

景山誠たちは少し待つことになりました。

ここの音楽設備は現在国際的に最高峰のもので、天后様クラスの人物もここでレコーディングを行いますが、スタジオは2つしかなく、もう1つは既に予約が入っていたため、景山誠は小谷千秋のレコーディングが終わるのを待ってから録音することになりました。