沢井恭子は自分の化粧室に戻った。
しばらくすると、沢井千惠が慌てて駆けつけてきた。「橘さん、今日は何を歌うの?まさか、また朗読じゃないでしょうね?」
実際にまた詩を朗読して番組内でサボろうと考えていた沢井恭子は「……」
彼女のその表情を見て、沢井千惠は笑った。「あれは一回で十分よ。今回は適当に象徴的に二、三行歌えばいいわ。そうしないと手抜きすぎるでしょう。」
二、三行歌う……
「わかった。」
沢井恭子が素直に承諾すると、沢井千惠は続けた。「そうそう、前回のあなたの山崎夏枝への評価が話題になったから、今回は、ディレクターたちがあなたに最初のステージの後、審査員席に座って引き続き歌手たちを評価してほしいって。これは小谷千秋が提案したの。あなたの評価が的確で鋭く、歌手たちの不足点を直接指摘できるから、あなたの正体が明かされた後、評価された歌手たちはきっとあなたに感謝するはずだし、番組の話題性も上がるって。」