第165章 身分を疑う

沢井恭子がまさに手を下そうとした時、目の端に彼の耳元の傷跡が映った。

かつて、二人で任務を遂行していた時、彼女が一瞬の油断で奇襲を受け、彼が間一髪で彼女を突き飛ばし、代わりに一刀を受けた。

その一刀は、彼の耳元から首筋まで一直線に切り裂いていた。

もう一寸深ければ、頸動脈を切断して死亡していただろう。

命は取り留めたものの、大きな傷跡が残り、それ以来、彼は丸刈りをやめて長髪にした。

彼女は覚えている、当時特別に軟膏を調合して、彼の傷跡を消そうとしたことを。

しかし半年後も、その傷跡は少しも変化がなかった。

彼女が薬を使っていないのではないかと問い詰めた時、男は邪悪な笑みを浮かべて言った。「ただの傷跡さ。俺は見た目なんて気にしない。それに、これは俺がお前の命を救った証だ。五一八号室、覚えておけよ、お前は俺に命の恩がある」