佐藤大輝は顔を上げ、深い瞳で山村治郎を見つめた。「礼儀作法を忘れたのか?」
山村治郎はそこで自分がノックもせずに入室したことに気づいた。すぐに部屋を出て、「申し訳ありません。興奮していました。もう一度ノックしてから入り直しましょうか?」
佐藤大輝が何か言う前に、佐藤樹富が彼を止めた。「今はそんな場合じゃない。さっき感染したって何のことだ?」
山村治郎はようやく携帯を佐藤樹富に渡した。「山崎武弘の遺体に触れた法医学者の一人が感染したんです。この件はすでにネットで話題になっています。関係部署から、解熱丸を購入して予防治療するよう呼びかけがありました。」
佐藤樹富は絶望的な気持ちだったが、このニュースを見て目が輝いた。「本当に感染症が...これは本当だったんだ!」
彼は山村治郎の携帯を持って外に向かった。「今すぐこのニュースを株主たちの顔に叩きつけてやる。よく見せてやるぞ!」
そう言って、興奮した様子で部屋を出て行った。
山村治郎は何か違和感を覚えたが、考えがまとまらないうちに、佐藤大輝が彼に尋ねた。「製薬工場の方はうまくいったか?」
山村治郎はすぐに注意を引かれ、「全然うまくいきませんでした。みんな感染症を信じていません。研究者たちは、ご存知の通り、みんな自分が偉いと思っていて、解熱丸の生産を止めようとまで言い出しました。大輝さん、最後どうなったと思います?」
佐藤大輝は反応しなかった。
案の定、山村治郎は待ちきれずに続けた。「ザルスが出てきた後、橘様が『本当に感染症がある』と一言言っただけで、彼は信じたんです。今確認したところ、工業団地ではザルスが直接解熱丸の生産を監督しているそうです!」
沢井恭子の能力を認めた後、山村治郎はずっと賢くなった。デスクに寄りかかり、花柄のシャツを整えながら続けた。「ザルスは橘様を知っているんじゃないかと思います。そうでなければ、こんなにスムーズにはいかないはずです。」
佐藤大輝はパソコンの画面を見たまま淡々と言った。「ふむ、まだ救いようがあるな。」
山村治郎は鼻をこすりながら、「これも橘様が深く隠していたからです。海浜市の誰に言っても、毎日喧嘩ばかりして、学校にもまともに通わず、品行方正とは言えない橘様が名医だなんて、誰が信じるでしょうか?」