第225章 私は外で待っている

佐藤百合子の言葉を、佐藤大輝はもう聞こえていなかった。

彼の世界は突然無音になったかのようだった。

彼の注意は全てその金色のマスクに向けられていた。

五一八号室は彼女だった!本当に彼女だったのだ!!

彼女は死んでいなかった……まだ生きていた!

しかし五一八号室の遺体の残骸は彼が実際に見ていた……

それに、彼は五一八号室がマスクを外した姿を見たことはなかったが、五一八号室は彼の素顔を知っていた……

一体これは全て、どういうことなのか?

佐藤大輝は震える手で、佐藤百合子の顔からマスクを外した。

あの爆発の後、彼はこのマスクを探すことすらしなかった。このような素材のマスクは爆発の高温に耐えられるはずがなく、必ず溶けてしまうと思っていたからだ。

しかし、そうではなかった。

彼女は死んでいなかったから、マスクも無事だったのだ……

彼は今の自分の姿が、目尻が真っ赤で、顔色が異常なほど青白いことに気付いていなかった。

佐藤百合子は彼の様子に怯えていた。彼女は呆然と佐藤大輝を見つめ、小さな声で呼んだ。「お父さん?」

佐藤大輝はようやく少しだけ理性を取り戻したかのようだった。

彼の目はそのマスクから離れたくないかのようだったが、それでも佐藤百合子を一瞥して言った。「百合子、私は、ちょっと出かけてくる。剛士がここで君と一緒にいてくれる。いいかな?」

そう言うと、彼は上着を手に取り、身に纏うと、大股で外へ向かった。

剛士は彼が出て行くのを見て、声を掛けた。「若旦那、あなたは……」

「百合子を頼む」佐藤大輝は彼の言葉を遮った。

佐藤百合子も外に走り出て、呆然とした目で彼を見つめた。「お父さん、どこに行くの?」

「お母さんを探しに」

佐藤大輝はそう言い残すと、すぐに車を発進させた。黒いフォルクスワーゲンが、まるでスポーツカーのように走り去っていった。

佐藤百合子と剛士の二人が、その場に残され、顔を見合わせた。

剛士はようやく後の言葉を口にした。「……でも、お身なりが整っていませんよ!」

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五十嵐家。

五十嵐家の全員が本邸に住んでいた。本館には五十嵐正弘一家が住み、次男家と三男家は後ろの洋館に住んでいた。