第273章 人数合わせ！

化粧室内は静まり返り、全員が五十嵐孝雄の指を見つめていた。

皆が心配そうな眼差しを向けていた。

沢井恭子は即座に彼の手を確認しに行った……

右手人差し指の爪が肉眼で見えるほど青く腫れ上がり、内出血していることは間違いなかった。軽く押さえただけで、五十嵐孝雄は痛みで手を引っ込めようとした。

沢井恭子の心が沈んだ。

右手人差し指の末節骨折、骨折自体は軽度だが、怪我をした指は激しい痛みを伴い、活動を制限して静養する必要があった。

効き目の早い薬があっても、最低でも10日間の休養が必要だった。

しかし、彼らの試合まで残り30分もなかった。

学校の校医も駆けつけて、腕と指を診察し、すぐに安堵の表情を浮かべた。「軽度の骨折です。深刻ではありませんが、演奏はできません」

古琴は爪で弾くもので、五十嵐孝雄は常に爪を指の肉より2ミリ長く保っていたが、今や、その爪は明らかに割れており、演奏時に爪で弦を弾くと激しい痛みが走るはずだった。

しかも十指は心臓に通じている……

沢井恭子は唇を固く結んだ。

杉村智之はようやく冷静さを取り戻し、彼の手を見つめながら呆然と言った。「わざとじゃなかったんだ。琴を壊そうとしただけで……」

温井琴美は偽善的に言った。「智之さん、それでも彼の手を壊すべきじゃなかったでしょう？どうしましょう、警察を呼びますか？」

警察？

もし警察を呼べば、五十嵐孝雄と杉村智之の両方が連行され、五十嵐孝雄は今夜の演奏を逃すことになる。

しかも最初に手を出したのは五十嵐孝雄だった。

それに、処罰されたとしても、杉村智之が医療費を支払うだけで済むだろう。この怪我は重傷ではないので、拘留さえないかもしれない。

五十嵐孝雄はこれらを理解し、即座に拒否した。「警察は呼ばない」

杉村智之も非を認め、五十嵐孝雄を試合に出場させたくなかったものの、すでに手を負傷させてしまい、警察を呼んで事を大きくすれば五十嵐家に説明がつかないため、これ以上騒ぎ立てなかった。

皆が事を収めようとしていた。

スタッフがすぐに尋ねた。「では、コンテストは……」

「続行します！」

五十嵐孝雄は冷たい表情で、目を赤く腫らしながら言った。

彼は間違えた。

いつもこんなに衝動的に行動するべきではなかった。他人の罠にはまってしまった！

しかし、どうあれ、舞台に立つ！