「沢井さん、こちらです」
白井隆司の声に、沢井恭子は我に返った。
彼女は白井隆司と五十嵐紀代実の後ろについて歩いた。
この恋人同士は今、まさに蜜月の時期で、二人が会うなり、普段は落ち着いている白井隆司が小指で五十嵐紀代実の手に触れた。
五十嵐紀代実は顔を赤らめ、すぐに手を引っ込め、彼を睨みつけた。
そして、ここは白井家だし、従姉妹もいるのよと目配せした。
白井隆司は沢井恭子を一瞥したが、彼女の視線は遠くを見つめていたので、また五十嵐紀代実の手首を掴んだ。「何を恐れることがあるの?従姉は見ていないよ」
二人の仕草を全て見ていた沢井恭子は「……」
でも、沢井千惠と景山誠のイチャイチャに比べれば、この二人のは前菜にも満たないレベルで、彼女は完全に免疫があった。
白井家も広大な敷地を持つ屋敷で、嫡系一族が全員ここに住んでいた。
京都四大名家は皆、老人が家族を分けない原則を重んじていた。
白井隆司は目の前の大きな邸宅の三階を指さし、左から三番目の部屋について、五十嵐紀代実の耳元で囁いた。「あれが僕の部屋だよ。今リフォーム中で、結婚後はそこに住むんだ」
五十嵐紀代実は思わず舌打ちし、頬が真っ赤になった。
白井隆司は続けて言った。「外に住むのも構わないけど、白井家には規則があって、結婚後一年は本邸で暮らさなければならないんだ。親戚たちとも親しくなれるし、そうしないと引っ越した後に戻ってきても、誰が誰だか分からなくなるだろう」
五十嵐紀代実は恥ずかしそうに頷いた。
突然、沢井恭子は佐藤大輝が消えた方向を指さして尋ねた。「あちらは何があるんですか?」
白井隆司は答えた。「お爺さんの竹林亭だよ。将棋を指したり、お茶を飲んだりするのが好きで、時々お客様をもてなすこともある」
今日のお客様は佐藤大輝のようだ。
佐藤大輝が白井家に何の用で来たのか分からず、沢井恭子は桃色の瞳を伏せた。
白井隆司は使用人たちに指示して、五十嵐紀代実が皆へのお土産を部屋に運ばせ、二人を応接間に案内して、白井家の親戚たちの到着を待った。
時間が一分一秒と過ぎ、白井さんがやってきた。彼女の厳しく批評的な表情には緊張の色が見え、まるで五十嵐紀代実が失態を演じるのを恐れているかのようだった。
何度も緊張しないようにと言い聞かせた。
五十嵐紀代実はそのたびに頷いた。