藤原美月は空港に立ち、周りの人々の往来をぼんやりと見つめていた。
この街で、彼女はもう十年も暮らしていた。大学から今まで、無意識のうちに、ここを家だと思うようになっていた。なぜなら、最高の友人たちも、愛する人たちも、みんなこの街にいるからだ。
家族のいる場所が家だと言う人もいる。
彼女の家族はここにはいない。家族のいる場所も、彼女の家ではない。だから、ここを家だと思い込んでいた。
ただ、思い込んでいただけだった。
彼女はスーツケースを引きながらゆっくりと出口へ向かい、心の中で自分を励ました。大したことないじゃない?誰だって裸一貫で来て、裸一貫で去るんだから。人は誰でも一度きりの人生、来世なんてないんだから、幸せが一番大切。——自分の幸せが一番大切で、他人のことは気にしなくていい。
「関口さん、待って!」林千代は12センチのハイヒールで早足に関口孝志を追いかけた。
関口孝志は足を止めなかった。
林千代が彼の腕に手を回すと、関口孝志はようやくペースを落とさざるを得なくなった。
彼は眉をひそめて林千代のハイヒールを一瞥した。「なぜそんな靴で出かけるんだ?」
林千代は言葉に詰まり、無理に笑顔を作って言った。「どうしてそんなに急ぐの?出口にはきっと記者がいるわ。私たちが前後して歩いているところを撮られたら、また変なことを書かれるかもしれない。そうしたらお母様が見たら、面倒なことになるわ。」
関口孝志の眉間のしわはさらに深くなったが、足を止め、林千代が腕に手を回すのを許した。
林千代は得意げな表情を見せないよう気をつけながら、優しく微笑んで関口孝志の傍らに寄り添った。見た目には、幸せな夫婦のようだった。
「関口さん、時間を作って、結婚写真を撮りに行きましょう」と林千代が言った。
「もう撮ったじゃないか?」関口孝志の冷淡な口調には、わずかな苛立ちが混じっていた。
「あれは婚約写真よ。結婚写真があんなに少ないわけないでしょう?」林千代は笑いながら説明した。
関口孝志が何か言う前に、林千代は続けた。「お母様とも相談したの。和装も洋装も撮りたいし、お父様とお母様も一緒に家族写真を撮りましょう。将来子供ができたら、毎年撮影するのよ」林千代は幸せそうな表情を浮かべた。
関口孝志は黙っていた。林千代が彼の両親を持ち出すたびに、彼は何も言えなくなった。