藤原美月は空港に立ち、周りの人々の往来をぼんやりと見つめていた。
この街で、彼女はもう十年も暮らしていた。大学から今まで、無意識のうちに、ここを家だと思うようになっていた。なぜなら、最高の友人たちも、愛する人たちも、みんなこの街にいるからだ。
家族のいる場所が家だと言う人もいる。
彼女の家族はここにはいない。家族のいる場所も、彼女の家ではない。だから、ここを家だと思い込んでいた。
ただ、思い込んでいただけだった。
彼女はスーツケースを引きながらゆっくりと出口へ向かい、心の中で自分を励ました。大したことないじゃない?誰だって裸一貫で来て、裸一貫で去るんだから。人は誰でも一度きりの人生、来世なんてないんだから、幸せが一番大切。——自分の幸せが一番大切で、他人のことは気にしなくていい。