二見和利は目の前の分厚い弁護士からの内容証明郵便の山を呆然と見つめた。「これ、これ、全部私たちのものですか?」
向かいの弁護士は無表情で答えた。「はい、二見さん」
「そんなはずない?ありえない!」二見和利の頭の中は真っ白になった。
弁護士は丁寧に説明した。「私どもの調査によりますと、これらのネット上の過激な発言のIDはすべて貴社の社員によるものです。また、一部の散発的なユーザーも貴社の社員に指示され、金銭を受け取って行動したと証言しています。私どもは依頼人の委託を受け、この誹謗中傷の関係者全員を徹底的に追及する所存です」
二見和利の思考が徐々に戻ってきた。「あなたの依頼人は、二見奈津子ですか?」
弁護士は「正確には二見奈津子さん個人ではなく、彼女の事務所です。ただし、彼女個人に対する誹謗中傷については、私のもう一人の依頼人が徹底追及を要求しています」
「もう一人の依頼人?誰ですか?」二見和利は呆然と尋ねた。
「佐々木さんです」弁護士の口調は少しも揺るがなかった。
二見和利の心臓が「ドキッ」と鳴り、言いようのない感情が込み上げてきた。
「佐々木さんは、二見奈津子さんを害する者は一人たりとも許さないと仰っています。示談は一切受け付けないとのことです」
二見和利はゆっくりと頷いた。「分かりました。当社の法務部と連絡を取らせます。しかるべき対応をさせていただきます」
二見和利は心の底から無力感が湧き上がるのを感じた。
弁護士は多くを語らず、立ち上がって別れの挨拶をした。「二見さん、佐々木さんからのメッセージをお伝えします。彼は二見奈津子さんを全力で守る、たとえ二見家の者が彼女を傷つけようとしても、たとえ二見さんが追及を望まなくても、佐々木さんは決して容赦しないと」
二見和利は一言も発することができなかった。
弁護士が去った後、彼は静かに椅子に座ったまま茫然としていた。
この数日間、彼はネット上の情報にはあまり注意を払っていなかった。というのも、突然の思い付きで二見奈津子の過去を調べていたからだ。彼女が行方不明になった場所で、養父母が営んでいた店のことを。