第17章 また猫が鼠を泣く偽善者ぶりをしに来たの?

岡本治美は佐藤和音を病室に連れて行った。

「和音、また猫かぶって偽善者ぶってどうするの?」

佐藤直樹は相変わらず怒っていて、佐藤和音を見るなり目に火をともしていた。

岡本治美の心は痛く締め付けられた。制止しようとしたが、佐藤正志の目配せで止められた。

彼女が止めれば止めるほど、佐藤直樹の佐藤和音に対する不満は増すばかりだった。

この対立の中で、岡本治美は佐藤和音のために弁解しない方がよかった。

佐藤直樹の非難と怒りに対して、佐藤和音は反論も説明も愚痴も言わなかった。

彼女は静かに、真剣に、佐藤直樹のすべての非難と責めを聞き、彼のすべての怒りを受け入れた。

表情は穏やかで、眼差しは清らかな山の清水のようだった。

この瞬間、心を打たれたのは岡本治美だけでなく、佐藤正志までもが眉をひそめた。

「和音、このことがこれで終わると思うなよ!俺はお前を許さない!永遠に許さないからな!どんなことをしても、もうお前を妹とは思わないからな!」

佐藤直樹は長々と罵り続けた末、自分で疲れたのか、それとも反論しない佐藤和音に対して面白くなくなったのか。

「母さん、今日は僕が直樹の看病をするから、何日も家に帰ってないでしょう。一晩ゆっくり休んできてください」佐藤正志が適切なタイミングで口を開いた。

岡本治美は頷き、佐藤正志に遠慮はしなかった。

確かにちゃんとお風呂に入る必要があった。この数日は近くのホテルで済ませていたが、佐藤直樹から長時間離れられないため、いつも慌ただしく行き来していた。

「じゃあ、お願いね」

岡本治美は病室のドアまで来たとき、わざと足を遅くして、後ろの佐藤和音が追いつけるようにした。

病室を出て駐車場に着くと、岡本治美は手を伸ばして佐藤和音の頭を撫でた。

「和音、今のあなたはとてもよくやっているわ。母さんは嬉しいわ。お兄ちゃんが怒るのも分かってあげて。叱られても仕方ないわ。お兄ちゃんは辛いのよ。この時期は必ず過ぎ去るわ。これからずっと良い子でいれば、きっとまたあなたを妹として認めてくれるわ…」

岡本治美の涙が目から流れ落ちた。

自分の二人の子供がこんな状態になってしまい、母親として心が刃物で切られるような痛みを感じていた。

岡本治美の涙を見て、佐藤和音は母の涙を拭おうとした。

しかし途中で手を止め、下ろしてしまった。

佐藤和音の仕草に気づいた岡本治美は、彼女を見つめた。

佐藤和音の澄んだ目を見つめ、岡本治美は突然大声で泣き出し、身を屈めて佐藤和音をきつく抱きしめた。

この数日間、佐藤直樹の前では少しの悲しみも見せられなかった。息子の気持ちに影響を与えたくなかったからだ。

今はもう我慢できなくなっていた。

一度堰を切った涙は、洪水のように、心の苦しみを全て流し尽くすまで止まらなかった。

抱きしめられた佐藤和音の体は硬くなった。

佐藤和音にはこのような状況への対処経験がなく、岡本治美に抱かれるままでいる以外に、何をすべきか分からなかった。

しばらく迷った後、佐藤和音はようやく手を伸ばして岡本治美を抱き返した。

岡本治美の体は温かく、流れ出る涙も温かかった。

しばらくして、岡本治美は涙を止め、優しい声で佐藤和音に言った。「和音、これからずっと良い子でいてね。ずっと良い子でいるのよ。母さんに約束して、いい?」

「うん」佐藤和音は小さな声で答えた。

岡本治美は涙を拭った。「母さんが今、あなたを驚かせてしまったわね。母さんが悪かったわ。泣いたりして。お父さんがすぐにお兄ちゃんの手術ができる先生を見つけてくれるから、お兄ちゃんの手もすぐに良くなるわ。もう悲しむことなんてないのよ」

岡本治美のこの言葉は、佐藤和音を慰めると同時に、自分自身も慰めていた。