佐藤正志は確かに佐藤家の孫世代の中で、ビジネスの才能が一番ある者だった。
おじいさんの若い頃の風格そのものだ。
それを聞いていた傍らの山田燕は胸が苦しくなった。
普段は子供たちの好きなことが一番大切だと言っているくせに、結局は正志が一番気に入りなのか。
しばらく話した後、上杉望が口を開いた。「佐藤おじいさん、今度の土曜日に家でパーティーを開くんです。秋次おじいさんの歓迎会なんですが、隼人と和音ちゃんを招待したいと思うんですが、よろしいでしょうか?」
上杉家は隣同士で、土曜日は休日だし、学校もない。何の不都合があるというのだろうか。
佐藤おじいさんは二人の子供たちの方を向いて言った。「行きたければ行きなさい。毎日勉強ばかりで頭が疲れているだろうから、たまには気分転換するのもいいことだ。」
佐藤おばあさんも同意した。「和音、行っておいで。思いっきり楽しんでくるといいわ。」
おばあさんは、和音が最近良くない時期を過ごしていることを考えると、同年代の子供たちと一緒にリラックスするのもいいことだと思った。
この菊地秋次は少し不良っぽく見えて、付き合いやすい相手ではなさそうだが。
しかし上杉家は佐藤家の代々の友人で、信頼できる家柄だ。上杉望も信頼できる子供で、彼がいれば安心できた。
佐藤隼人は心の中では行きたくなかったが、断る言葉を探していたところ、山田燕が先に承諾してしまった。
「ちょうど隼人は土曜日は何もないから、行けるわ。和音の付き添いにもなるしね。」
佐藤隼人の口まで出かかった断りの言葉は、母親によってすべて押し戻されてしまった。
佐藤隼人は傷ついた表情を見せたが、母親の強制に対して何も出来なかった。
佐藤おばあさんは心の中でため息をついた。普段は山田燕が隼人を縛り付けて、週末もびっしりとスケジュールを詰め込んで、自由な時間を与えない。今日に限って時間があるというし、和音の付き添いだというし。
佐藤和音は佐藤隼人の傷ついた眼差しに気付いた。
少し間を置いて、元々行くつもりのなかった佐藤和音は考えを改めた。「私も、行きます。」
生まれつきの幼い声だったが、その口調は揺るぎないものだった。
案の定、和音が承諾すると、佐藤隼人の表情は一気に明るくなった。
和音ちゃんと一緒なら、自分の好きではないパーティーでも耐えられそうだった。