第140章 1凌が病気(4)

彼は思い出した。つい最近まで、家族みんなが幸せだったことを。

あの一度の出来事で、すべてが完全に変わってしまった。

彼の手を、彼の人生を、そして彼らの関係までも台無しにした。

すべての原因は原詩織、かつて彼が深く信頼していた原詩織だった。

今、現実は彼に教えてくれた。この女は偽善者で、信頼に値しない人間だと。

佐藤直樹はここまで考えて、どうすればいいのか分からなくなった。

病室の中で、数人が佐藤和音と長い間話をしていた。

岡本治美はまだ佐藤和音の看病を続けたがっていたが、佐藤おばあさんは反対した:

「おりこは私と明人で見ているから大丈夫よ。心配しないで。あっちは入院手続きをしなきゃいけないんでしょう?まずはそちらを済ませてきなさい。」

佐藤直樹の手術のことは佐藤おばあさんも既に知っていたので、岡本治美に先に佐藤直樹の件を片付けてから佐藤和音のことを心配してもらおうと考えていた。

両方とも中途半端になってしまうのを避けたかったのだ。

佐藤おばあさんは、岡本治美が佐藤和音のそばにいながら佐藤直樹のことを気にかけるのは、かえって心が痛むだろうと思い、残らない方がいいと判断した。

岡本治美は依然として譲らず、血の気のない娘の顔を見ていると、一歩も離れたくなかった。

佐藤正志が言った:「おばあちゃん、母さんを残してあげて。直樹の方は僕が見ているから。」

この状況を見て佐藤おばあさんも仕方なく、「分かったわ。あなたたちで上手く調整してね。」

そのとき、背の高い女性が勢いよく佐藤和音の病室に入ってきた。

威勢のいい様子で、歩くたびに風を切るような感じだった。

女性の後ろには、彼女より一歩遅れて金縁の眼鏡をかけた男性が続いていた。

佐藤家の者たちは二人を見て驚きの表情を浮かべた。

奥野実里は入室するなり、部屋に何人いようとも気にせず、まっすぐに佐藤和音のもとへ向かい、元々佐藤和音の傍にいた佐藤明人を押しのけた:

「どうしたの?どうして病気になっちゃったの?熱も出てるの?」

奥野実里は手慣れた様子で佐藤和音の額に手を当てた。

「まだ少し熱がある。」奥野実里は続いてベッドサイドテーブルに置かれていた佐藤和音のカルテを手に取り、習慣的にチェックした。