「ゴホゴホ」藤田安広は軽く咳をして、佐藤和音に夢中になっている奥野実里の注意を引こうとした。
奥野実里は小田百蔵を見上げ、少し嫌そうな表情で言った。「小田さん、私たちは友達のお見舞いに来ただけで、何も企んでいないわ。仕事の話は持ち出さないで。今日は仕事の話はなしよ」
「友達?あなたたちの友達って誰なの?」小田百蔵は好奇心いっぱいの顔をした。
奥野実里と藤田安広の友達がどんな人なのか、本当に興味津々だった。
「お見舞いに来たって言ったでしょう。友達というのはベッドに寝ている人に決まっているじゃない。立っている人のお見舞いなんてあり得ないでしょう?」
小田百蔵は気まずそうな表情を浮かべた。奥野博士は相変わらず...人の面子を潰すような言い方をする。
小田百蔵はもう一度真剣にベッドの人を見つめた。
彼が見たのは、痩せこけて虚弱そうな少女の姿だった。
少女は明らかに若く、中学生くらいに見え、奥野実里や藤田安広とはかなり年齢が離れていた。
これは不思議だった。
「奥野博士、彼女は...」
これが二人がお見舞いに来た「友達」?
「どうかしましたか?何か意見でも?」奥野実里は反問した。
意見なんて、小田百蔵にはもちろんなかった。
ただ、この事がちょっと「特別」に感じられただけだ。
普段から奥野実里や藤田安広と話をしていても、彼らの思考についていくのが難しいと感じることがある。
ベッドに横たわっているあの少女が、どうやってこの二人と「友達」になったのだろう?
小田百蔵の心に疑問が浮かび、部屋の中の他の人々も同じように疑問を抱いていた。しかも、その疑問は小田百蔵のものよりもさらに大きかった。
「小田院長、このお二人をご存知なんですか?」佐藤賢治が尋ねた。
「ええ、知恵研究所の研究員のお二人です」
「研究員」という肩書きは一見普通に聞こえるかもしれないが、その前に「知恵研究所」という言葉が付くと、全く違った印象になる。
あそこの「研究員」は皆、業界のトップクラスの人材ばかりだ。
佐藤賢治は、なぜこの二人に見覚えがあったのかを思い出した。
以前、佐藤直樹の手術ができる医師を探していた時に、関連資料でこの二人を見かけていたのだ。
二人とも、それぞれの分野での最高峰の研究者だった。