佐藤明人も近寄ってきた。「小さな鼻たらし、どうして隼人だけを呼んで、私のことを呼ばないの?」
佐藤明人は最近コンサートの準備で忙しく、夜は実家に帰ることが少なく、帰っても深夜になってしまい、佐藤和音と顔を合わせることはなかった。
妹が優しく隼人兄と呼ぶのを聞いて、自分のことを呼ばないことに、佐藤明人は大いに不満を感じた。
年齢順で言えば、従兄の自分が先なはずなのに。
佐藤明人はただ妬いているだけだった。
部屋にいる佐藤正志の顔は真っ暗になった。
実の兄である彼は、妹が兄と呼んでくれなくなってどれだけ経つかわからない。
佐藤直樹もこの時、何か異様な感情を抱いていた。
それがどんな感情なのか、自分でもうまく説明できなかった。
以前は佐藤和音を憎み、自分の手に希望がないと思い、他のことは考えないようにしていた。