原おばさんは焦って泣き出した。
原詩織はその声を聞いた瞬間、胸が締め付けられるような思いがした。
「お母さん、どうしたの?何があったの?落ち着いて、またあのろくでなしが来たの?」
「違うの、それが...それが...長男様に解雇されたの...」
「何ですって?解雇?どうしてそんな...」
原詩織の顔に驚きの色が浮かんだ。
目の前で好奇心に満ちた眼差しを向けている江口沙央梨を一瞥すると、原詩織は立ち上がり、食堂の外の花壇のそばに移動して、母との会話を続けた。
「お母さん、泣かないで、泣かないで。まず長男様が何て言ったのか教えて。」
原おばさんの泣き声に、原詩織の心は締め付けられるようだった。
「長男様は、お嬢様が本邸に戻られて、長男様と次男様もあまり家にいらっしゃらないから、面倒を見る必要があるのは三男様だけで、安田おばさん一人で十分だから、私はもう必要ないって...」
最初、佐藤邸には安田おばさん一人しか使用人がいなかった。
原おばさんは、後に安田おばさんが年を取って体力が追いつかなくなってから雇われた。
新しい使用人を探すとき、原恵子には多くの競争相手がいて、本来なら佐藤家に入れるはずもなかったが、山田燕が裏で助けてくれたおかげで、この得難い高給の仕事を確実に手に入れることができた。
佐藤正志のこの言葉に反論の余地はなかった。
もし原おばさんが何か間違いを犯したから解雇するのだと言われたなら、まだ反論も説明もできただろう。
しかし今は単に必要ないと言われただけで、原おばさんには自分のために再度チャンスを得る機会すらなくなってしまった。
原詩織は呆然とした。この出来事はあまりにも突然で、途方に暮れてしまった。
最近でさえ生活は楽ではなく、母は来月の給料を受け取ってから貯金を始めようとしていた。
今、突然仕事を失い、生計を立てる手段を失った。
電話の向こうで原おばさんはすすり泣きながら言った。「詩織、私たちこれからどうすればいいの?長男様に解雇されて、佐藤家から引っ越さなければならないの。」
この急な話で、どこに住む場所を探せばいいのだろう?
「お母さん、今月の給料は長男様からちゃんともらえたの?」
「全部もらったわ。長男様は最初の契約通りに処理してくれたの。」