第260章 原おばさんが解雇される（3）

もともとその一万元は口約束だったので、契約上の拘束はなく、家主が払いたくないと思えば払わなくてもよかった。

「お母さん、今どこにいるの？」

「今、荷物をまとめて出てきたところよ。まだ佐藤邸の門の前にいるわ。」

原恵子は佐藤正志に佐藤家から出ていくように要求され、一日も猶予を与えられなかった。

原恵子が佐藤家に住んでいたのは、佐藤家が母子に特別な配慮をしていただけで、自分たちで借りた家ではなかったため、事前通知や新しい住居を探す時間を与える義務はなかった。

原恵子は今、大きな荷物を抱えて佐藤邸の大きな鉄門の前に立っていた。

「タクシーがないの？私が呼んであげようか。」

佐藤邸の門前のバスの便は多くなかった。

「いいえ、もう少し待ちたいの。ご主人とお奥様が帰ってくるのを待って、直接お二人にお聞きしたいの。」

今、佐藤邸には佐藤正志しかおらず、原恵子はまだ佐藤賢治と岡本治美夫妻に会えていなかった。

「お母さん……」原詩織は心が苦しかった。

母親がこうしているのは、わずかな希望を抱いているからに他ならない。

原詩織は母親に諦めるよう説得したかったが、言葉が出てこなかった。

今の彼女には何もできず、母親に諦めるよう説得する勇気さえなかった。

母親に諦めるよう説得しても、母親に逃げ道を与えることもできない。

「詩織、あなたが放課後に……もう家に入れなくなるのよ……」原おばさんの気持ちは苦しくてたまらなかった。

娘が放課後に帰宅しても、もう暖かい部屋で安心して宿題ができなくなることを考えると、原おばさんは自分の無力さを恨んだ。

「お母さん、私は平気よ、大丈夫。私たち、もっと辛い日々も乗り越えてきたでしょう。今のことなんて大したことないわ。今夜はホテルに泊まって、明日から家を探して、それから仕事も探せばいいの。きっと良くなるわ。」

原詩織は一生懸命原おばさんを慰めた。

「わかったわ、そうするわ。」

原詩織は時計を見て、もう原おばさんとこれ以上話を続けられないことに気付いた：

「お母さん、クラスメートが待ってるから、切らないと。」

「ええ、ええ、勉強を優先しなさい。」

原詩織は原おばさんとの通話を切って食堂に戻ると、江口沙央梨はすでに食べ終わって待っていた。

「どうしたの？何かあったの？」江口沙央梨は心配そうに尋ねた。