この段階まで来ると、佐藤和音がこれ以上断れば、本当に気まずい状況になってしまうだろう。
特に相手が菊地秋次であり、会場の注目の的で、今日の注目の半分は彼に集まっているのだ。
もし今目の前に立っているのが見知らぬ人であれば、佐藤和音は相手の面子など考えなかっただろう。
しかし、何度も自分を助けてくれた菊地秋次のことを、完全に無視するわけにはいかなかった。
熟考の末、佐藤和音は立ち上がり、自分の手を菊地秋次の手のひらに置いた。
手が触れた瞬間、佐藤和音の手は少し震えた。
菊地秋次は手のひらの柔らかく白い小さな手を見下ろし、優しく握って、彼女をダンスフロアへと導いた。
佐藤賢治と岡本治美の心情は複雑だった。娘が明らかに危険な男性にダンスに誘われるのを見て、親として心配にならないはずがなかった。