第372章 ブレスレットの思い出(2)

「いいえ」十歳そこそこの少年は、声が妙に落ち着いていて、その年齢らしくなかった。

「そう」少女は失望した表情を見せた。

少女が立ち去ろうとして、少し躊躇してから振り返った。「浩人さん、和音と一緒に遊んでくれない?本は読まなくていいの!本なんてつまらない!」

「遊ばない」少年は無表情で断った。

「そう」少女は失望して唇を噛み、走り去った。

少女が去った後、少年は少し顔を上げ、遠くで楽しそうに走る少女を見つめた。

視線を手元の本に戻すと、彼の左手の掌には少女のヘアゴムが握られていた。ヘアゴムの飾りビーズには小さなウサギが彫られていた。

ドアベルの音が佐藤浩人の思考を中断させた。

佐藤浩人はドアロックのリモコンを押し、ドアが開いた。

ドアの外からキャリアウーマン風の女性が入ってきて、手には大量の資料を持っていた。

「社長、こちらがご要望の資料です。それと、お預かりした佐藤家の機密情報は、ご指示通り競合他社に流しました。佐藤家のビジネスにある程度の打撃を与えることができるはずです。」

女性は終始事務的に報告し、真っ直ぐ前を見つめていた。

「また、お母様のご指示により、原詩織さんに最高のリソースを提供し、原詩織さんの母親の窃盗の証拠も破棄いたしました。」

「分かった。佐藤正志の様子を引き続き監視しろ」佐藤浩人は口を開いた。表情は声と同じように冷たく、感情の起伏は全くなかった。

「はい、社長」

女性秘書は部屋を出て行った。

佐藤浩人は隣のテーブルの資料を手に取って目を通した。

冷たい表情に変化はなく、うつむいた顔に影が落ちていた。

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佐藤明人は最後に佐藤和音を訪ね、番組の第二回に一緒に出演してくれるよう頼んだ。

佐藤明人が佐藤和音を選んだのは、彼女の知能だけでなく、妹と週末を二人で過ごせる時間も狙っていた。

佐藤一輝が戻ってきてからは、佐藤和音の週末の時間を独占するようになっていた。

二人は家の書斎で実験をしたり学術研究をしたりするか、祖父の温室で花を育てて植物の研究をしていた。

他の人が入り込む余地はなかった。

彼が実家に帰っても、妹の注目を集めることはほとんどできなかった。

しかし、妹と一緒に番組に出演するのは別だった。

一緒にサバイバル生活を送り、謎解きに挑戦する。考えただけでもワクワクした。