第32章:井上様が来た

「霞さん、霞さん、大変です……」

クラブの二階の廊下で、ボディコンのミニスカートを着た女性がハイヒールで走り回り、とても慌てた様子だった。

「そんなに慌てて、後ろに幽霊でも追いかけてるの?」霞と呼ばれた人は眉をひそめ、不機嫌そうに叱りつけた。

「早く見に来てください。田中社長が一階のロビーで暴れてます」女性は切迫した表情で、何か大変なことが起きたようだった。

「田中社長?どの田中社長?」霞は疑わしげな表情を浮かべた。クラブに遊びに来る田中という名字の社長は百人近くいて、誰が誰だか覚えていられない。

「もう、花の常連客よ。レンジローバーに乗ってる、炭鉱の田中社長です」女性は焦って足踏みしながら、霞の手を引いて一階のロビーへと走り出した。説明も忘れずに:「花が今日どこで彼の機嫌を損ねたのか分かりませんが、花を連れて行くって言ってます」