幸い立ち退きの際にはかなりの補償金があり、自分の総経理の職も、いつまで続くかは分からないものの、高給な仕事ではあった。
細田登美子が心の中で計算していると、馬場絵里菜が突然販売員に尋ねた。「すみません、新築マンションに何か割引キャンペーンはありませんか?」
販売員は笑顔で頷いた。「キャンペーンはございますが、割引が適用されるかどうかはオーナー様の運次第となります。」
「運?」馬場輝は理解できず、販売員を見て、また母と妹を見た。こんなことが運で決まるのだろうか?
皆が困惑した表情を見て、販売員は笑顔で説明した。「はい、センチュリーマンションで100平米以上の物件をご購入のお客様は、割引抽選に1回参加できます。抽選箱には5色のプラスチックボールが入っています。白は外れ、緑は3等で2%オフ、黄色は2等で5%オフ、青は1等で7%オフ、赤は特等で15%オフとなります!」
そう言いながら、販売員はファイルからキャンペーンのチラシを取り出した。「詳細は全てこちらに記載されています。ご覧ください。」
全員がチラシを受け取り、そこには3等賞が10名、2等賞が5名、1等賞が3名、特等賞は1名のみと明確に書かれていた。
数千万円のマンションで、当選すれば数百万円も節約できる。
細田登美子と馬場輝はあまり反応を示さなかった。当選確率が低すぎると感じたからだ。色付きのボールはほんの数個しかなく、宝くじを買うのと変わらないと思ったのだ。
馬場絵里菜だけが、かすかに口角を上げた。
捨仙門の十二の心法のうち、馬場絵里菜が試したのは最も基本的な物體操作だけだったが、第三層の心法である透視が、今まさに役立つ時が来た。
すでにこの物件を購入することに決めていたので、一行は販売員と共に抽選エリアへ向かった。細田登美子の心の中では、当たれば良いが、外れてもこの物件は購入するつもりだった。
しかし馬場絵里菜にとって、これは必ず手に入れるべきものだった。なぜなら、彼女は遠くからでも心法を使って、しっかりと密閉された抽選箱の中を見通すことができたからだ。
目に入ったのは白いプラスチックボールばかりで、色付きのボールは端の方に数個混ざっているだけで、その数も少なかった。明らかに、すでに何人かのお客様が引いていったためだった。