第084章：話を最後まで聞いて

「あなた、落ち着いて。お姉さんの話を聞いて」芝子は進藤峰を見て、少し落ち着くように目配せした。

細田登美子は妹と妹の夫の家庭状況をよく理解していた。ため息をついてから続けた。「これは古谷さんから聞いた話なの。彼には都市計画局の常連客がいて、先日豆腐を買いに来た時にこっそり話してくれたの。それで私にも内緒で教えてくれて、早めに準備するように言われたわ。

私が知ってしまった以上、あなたたちに教えないわけにはいかないでしょう。早めに相談して、万が一に備えたほうがいいわ」

隼人はエビの殻を剥いて馬場絵里菜の皿に置いた。絵里菜はそれを見て微笑み、いとこに口パクで「ありがとう」と言った。二人の子供は黙々と食事を続け、大人の会話には口を挟まなかったが、すべての話を静かに聞いていた。

細田登美子は少し考えてから尋ねた。「去年、今住んでいる家を買い取りたいって言ってたでしょう？どうなった？家主は何て言ってるの？売ってくれるの？」

細田芝子と進藤峰には自分の家がなく、今足立区に借りている家に住んでいる。十数年も住み続けているが、幸い家主は良い人で、彼らが真面目な一家だと分かっているので、この何年かで家賃は何度か上がったものの、それほど法外ではなく、二人とも仕事があるので何とかやっていけていた。

ただ、これはずっと進藤峰の心配の種だった。妻と息子に本当の家を与えたいと思い、ここ数年ずっと家を買うことを考えていた。しかし、貯金は少なく、マンションの価格は年々上がっていくばかりで、心の中では平屋でもいいから、とにかく自分たちの巣を持ちたいと考えていた。

去年、進藤峰は細田登美子にこの考えを話し、今借りている家を買い取りたいと言っていた。今、足立区が再開発されることになり、登美子はふとこのことを思い出した。

進藤峰はその話を聞いて表情が苦しげになった。芝子が答えた。「家主さんと話し合いました。売ってもいいと言ってくれましたが、45万円が譲れない価格だそうです。私たち二人で貯金しているところですが、今の通帳残高はまだ20万円ちょっとしかないんです」

細田登美子は頷いた。「あなたたちが住んでいる家の敷地はとてもいいわね。45万円という価格も確かに妥当だわ」